夕焼け小焼け
わたしと彼のどちらが先に公園を後にするのだろう。
私たちはたくさんの約束をするんだけどそのすべてが実現しないことを了承している。いくつもの未来の話が、今をここに留めておくピンのように作用する。
電話を切るたびお互いの日常に戻るたび、もう二度と会えなくなることを心のどこかで予期している。他の多くの人びととこれまでそうしてきたように。
五時のチャイムはまだ鳴らない。
一致させよう
その言葉を聞いて私はとても哀しくなった。「人間が思いのままに変えることのできるものは、実際ほんのすこししかないものだ」
自分の力の及ぶ範囲はごく小さいのだ。食の好みが変わっていく例を私は知っている。妹は昔、辛いもの、分かりにくい味付けのものが苦手だった。小学校の入学前の面談で「好きな食べ物は」と問われ、「ママのつくるチャーハン」と元気よく答えたそうだ。母手製のチャーハンは卵とネギと白米を塩と胡椒で炒めたごく簡素なものであったため(妹の要望による)、母はたいそう恥ずかしかったらしい。
そんな彼女も今、大学に入学し、韓国に旅行し、家で夜な夜なトッポッキやカムジャ麺を温めている。明太子も食べられるようになった。
これは成長による過程であり、本人が意図して味覚を変化させたわけではない。
今日はコーヒーを二杯飲んだ。すこし頭痛がする。
深夜11時の浅草駅
扉が閉まったので踵を返し、階段を上る。電車がホームを出発し、距離がどんどん離れていく。スマートフォンの左上からWiFiのしるしが消えていくのを見ていた。