朝のコインランドリー

洗うものは山ほどあるんだけど

換気扇

 

先週、大学の友達と大学裏にあるスーパーマーケットまで歩く道すがら、サークルの同期の話をしていた。その友達とは一年の時からの仲で、留学期間と滞在国が被っていたこともあり、なかなか懇意にしている女の子だった。スペインとモロッコの旅を共にし、今は毎週水曜のイギリス文化の講義を並んで受講している。
几帳面、神経質、真面目、爽やか、と午後の公園を通り抜けながら挙げてゆく彼女と私は、本人たちがいないのを良いことに、明け透けに評価を下してゆく。
チリリーン。軽やかな入店音とともにエアコンの温風が頰を撫でる。奥の棚まで行き、几帳面な理学部同期に渡すパスタソースを選ぶ。彼は週末から、学科のプログラムで4週間カナダに行くのだ。留学経験のある私たちからのお餞別は、和風のパスタソースとティーバッグのほうじ茶。計366円也。
東武ストアをあとにして部室に向かう途中、先ほどの話を蒸し返し尋ねる自分の印象。就活の自己分析を念頭においているとか、そういう事も無くは無いけど、好奇心に駆られて聞いた。
少し躊躇う素振りを見せる友達は、(面と向かって聞かれると困る質問ってあるよね)しかし少し考えたあとに回答する。
「七変化?」
言わんとすることが分かるような気がして笑う。七変化。面白いなと思った。神経質とか真面目よりよっぽど良い。曰く、「出会った頃と、留学時期と、今と、印象が全然違う」そうだ。自覚している部分は大きく、当然と思う一方、他人は他人のことを結構観察しているものなのだなと冷静になった。

という経緯を今週、夜の河川敷を歩きながら高校の同級生に話した。午後の日差しの中交わした会話は、千葉県の深い夜の闇に白い息と溶けてゆく。寒い。特進理系クラスから建築科へ進学した彼女は、卒業制作で研究室に詰めている。大学が私の住んでいる町のそばにあるので息抜きに、と会うことになった。予定では浅草の酉の市を見に行く予定だったのだけど生憎の小雨。気温の低い夜がますます冷え込む中見たいものがあるとも思えず、妥協して大学付近まで私が出向くこととなった。
駅前の古い喫茶店。彼女の両親が学生の時からあるらしい。入ったことはないと言うのでとりあえず入る。ウィンナーコーヒーふたつ。理系の院進学は敷かれたレールのようで焦るものらしい。高校生の時の方がよっぽど選択肢が多くて存在していたと。高校三年間、一方通行の袋小路、一糸乱れぬ行進でデッドエンドまでお付き合い下さい。の空間に在籍していた私にとって、ひとつ隣の教室に移るだけでそんなに自由に息ができたのかと変なところに驚く。
ワーキングホリデーの話をしばらくしてお勘定。お次はカラオケ。カラオケの一曲目というのは最後の一曲と同じくらい大事らしい。二人以上で行くと気を遣う。といっても、今回はお互い普段から一人でも歌いに行く気軽さなので御構いなし。何人で行こうと大抵の場合私は一曲目を歌う側。
カラオケには流れみたいなものがあって、前の人が入れたジャンル・テーマがなんとなく続いたりする。そもそも歌う曲の雰囲気が似ていたり(大学の友達はジュディマリのそばかすを歌うタイプだった)するケースは別だけど、行く相手によって歌う曲が変わるのは普通の現象だと思う。私はミュージカルナンバーが好きでよく歌う。大学の友達と行った時はWickedを歌ったけど高校の友達は知らなそうだったのでLes Misérablesから選曲した。タッチパネルで延長のボタンを二回押し、一杯だけお酒も飲んで店を出る。最後の曲は友達の順番だったけど選ぶのに時間がかかっていたから椎名林檎の短い曲をずる込みさせた。
夕飯にラーメンをお腹いっぱい食べて(とりあえず大学の側から離れたいと言うので隣町の人気店に連れて行った)、帰りの一駅分を歩く。雨こそ止んでいたものの風は冷たい。満腹感に眠気を催しながらも足を前に前に。そして冒頭の話へ。
この間の友達にはうまく逃げられちゃったけど、彩ちゃんはちゃんと答えてくれる?笑顔で問うと苦笑いを返される。この子はこういう質問をされた時ごまかすことをしない。
「換気扇かなぁ」
自分で窓開けるよりも強制的に入れ替えてくれる換気扇は強力!特にあなたは高速回転のやつ。室内の淀んだ空気を入れ替え、中にいる人たちの脳内環境をクリアにする。換気係に命名されました。そういえば高校生の時はやたらと窓を開け閉めしていたような。
七変化という言葉は何も定義されていないけれど換気係もやたら空っぽな気がしてしまう。欲張りかな。だって誰かにとっての役割なんて自分の本質ではないでしょう。
人のことをリフレッシュさせるのがうまかったとして、果たして私は自分のために何ができるのでしょうか?私は私にとって一体何者。