朝のコインランドリー

洗うものは山ほどあるんだけど

書き直さない文章4

 

11.29

社会学部の教授の担当する講義を聴講した。ゲストスピーカーは以前、研究室で会ったことのある女性だった。受講生は少ないのか、サボりが多いのか、地下の小教室は霜月の冷気に浸食されてうらさびしい感じだった。

入管法の改正年度と不法就労者のグラフの数字がレジュメから浮き出てどこかへ行ってしまう。パワーポイントを注視する講師の後ろ姿が、イギリスの大学でロマン主義の構造について説いていた教授と被り、黒いブーツの踵をコツコツと鳴らす。

講義が終わり、コメントカードを埋めていると、隣に座っていたゼミ生が話しかけてきた。

「××さん、久しぶりっすね」

そうだろうか、と首を傾げながら挨拶を返して教室を出る。

そういえば、先週は休講だったし先々週は学祭準備期間で休校だった。さらに前週は発表直後で彼は欠席し、その前は二週連続で私が欠勤している。確かに一ヶ月以上は顔を見ていないはずだった。

会う頻度とその適切性は相手ごとに異なる。週一回空間を共有するこの関係は四ヶ月後既に解消されている。彼は最終学年に進み、私は大学を卒業する。

 

11.30

AM09:30 平日この時間帯の電車は人が少ない。空いた席に腰掛けると、対面に座る乗客と目が合った。忙しなく手遊びをしている。小説を取り出し読み始めたけれど、視界に入る掌と手の甲の往復と摩擦音が私をひどく猥雑な気持ちにさせた。