江國香織の小説でもっとも好きな一文だ。
そう、私たちは一度会えたら永遠に別れることはないのだ。途方もない距離が二人の間に生まれても。死が二人を分かつとも。
わたしは、親しい人のふと見せる表情の不在が好きだ。何か考えている時、または何も考えていない時の 心ここにあらずの顔。
それを発見できてしまう距離にわたしを置きながら、わたしの存在に無頓着でいてくれる気ままさ。
慣れ親しむことは隙を見せるのを許すこととほとんど同義だ。
お酒の入ったグラスやコーヒーカップが置かれたテーブルを挟んで座る人が睫毛を伏せ時たま見せるその表情を、私はとても愛しているのだと思う。
写真にでも収めておけたらいいのに、と常々思っているけれどランダムな一瞬を切り取るのは難しく、またその一瞬を切り取るため自分から目を離してしまうには惜しすぎる。そういう経緯があって未だシャッターを切る機会は訪れていない。