朝のコインランドリー

洗うものは山ほどあるんだけど

校正後

 

美しいなと思った。

菅田将暉の横顔。彫刻のような鼻背の無疵の造形美に幾度となく目を見張った。

 

渋谷アップリンクで 生きてるだけで、愛。 を観てきた。アレハンドロ・ホドロフスキーの映画とシェイプオブウォーターを観に行って以来だから三度目だ。一人では初めて。

バイト終わりに池袋でカレーを食べたあと慌ただしく移動し、年明けで賑わうスクランブル交差点の群衆を縫うように進み、本編スタートギリギリに滑り込む。

着ている服を脱いで脱いで走っても、私は私と別れられない。菅田将暉に投げかけられる「いいなぁ わたしと別れられて」という台詞は痛切だった。趣里の整えられていない黒の乱れ髪が印象的で、知り合いの輪郭を想起させた。同じ映画を二度シアターで見た経験は今のところ、人生で一度しかないけれど、もしかしたら再度鑑賞するかもしれない。根源的な苦しみを呼び起こす作品だった。

 

ただの連想で語りたいものの話をする。

紅白歌合戦は年末なんとなく点いているといった家庭に育ったので、きちんと見たことはほとんどないのだけど今年は米津玄師のLemonだけチェックしていた。

多くの人がインターネットで熱弁しているのを見るにつけ、歌詞の解釈が捗る樹木みたいな歌だと思う。

アイネクライネのような表出した鋭い痛みをあえて描かずに鈍いナイフの光を映している。深いところで痛いから気付かずにみんな惹きこまれる。別れ難くてどうしようもなかった場所から手を離して祈るため手を組む歌だと私は思っている。

私のコップは半分空っぽなので、誰かを愛した記憶よりもお別れした記憶の方が強いのかもしれない。

 

塾の生徒で口数の少ない中学生と紅白の話をした。好きなものの話をする時の少年は嬉しそうだ。

それから、別の生徒に高校都立の過去問を解かせていたら著作権の都合上問題文がカットされている問いがあったので、Googleで検索して印刷した。その短いエッセイは前半のみ抜粋されていたので後半は授業では使わなかった。答え合わせの後に残りの半分を読むか聞いてみたら意外にも受け取って熟読していた。

高校時代、教科書に掲載されている夏目漱石のこころを読む前にクラス全員が各自小説を購入させられて、現代文では初めから終わりまでみんなで読んだことを思い出した。文句を言っている人もいたけれど、私はその先生のおかげで夏目漱石をちゃんと知った。切り取られた枠の外側を知れるのはちょっと嬉しい。その子もそんな気持ちだったのかな。